190421_Voce(38)_現場に慣れるな

 
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主張

月刊消防2019年3月号p91

現場に慣れるな
清水道浩

日夜訓練に励み、各種災害対応に向け、力を積み重ねつつある30代の皆さんへ、私の失敗した経験を伝えたいと思います。

「救助指令、交通事故」当時私は30代半ば。積み上げた知識と充実し訓練で培った救助技術を元に、現場経験を重ねていくことで、活動に大きな自信を持っていました。

「大型バス×普通乗用車の衝突事故。詳細は現在不明」大型バスというキーワードに多数傷病者が頭をよぎります。(活動場所は?応援隊は?)通常災害と異なり対応の切り替えを頭の中で巡らせます。

現場へ到着すると、大型バスは回送中と判明し、幸い乗客は乗っていませんでした。私は、一瞬胸を撫で下ろしました。バスの運転手も無事です。もう一方の普通乗用車は大破していて、運転席に男性を確認しました。(車全体の変形は強いが、意識はしっかりしている。体の挟まれは・・・無いな)「運転席のドアを大型油圧救助器具で開放し、バックボードに固定して救出する」頭の中で救出までの道筋を描きます。(よし、いつもと同じだ)活動の最中、現場にフライトドクターが駆け付けました。「隊長、救出まで何分かかりますか?」の問いに「15分ください」と私は即答しました。変形した運転席のドアを順調に取り外し、車外へ男性を救出しようとした時です。(ん?足が抜けない)もう一度試すがやはり抜けません。(どこかが挟まれている?)「つま先が・・・」運転手の男性の言葉にハッとしました。(見ていない)変形した車内。つま先までは確認していません。膝下に腕を潜り込ませるとブレーキペダルに男性のつま先が隙間なく挟まれています。(しまった)私は実態把握を見過ごしました。いや怠ったのです。

 

 

車内を拡張し、男性の救助を完了し終えた頃には、すでに陽は落ち、夕暮れを迎えていました。

「15分ください」と即答した活動時間は、結果1時間半を要しました。幾重にも破壊された事故車両からは、後手に回った指揮が容易に見てとれます。

過去に経験した救助事案に安易に照らし合わせることなく、実態把握を怠っていなければ、また違う手立てを持って対応できていたはず。備えられたはず。私は現場を甘く見たのです。

現場を恐れ、知識、技術の錬磨に励む20代。現場経験を積み、その救助技術に成果が実りはじめる30代。私が積み重ねたものは、いつの間にか自信ではなく過信に変わっていました。

これから皆さんは知識・技術を磨き、多種多様な現場で活躍されることでしょう。資器材に慣れても、現場に慣れないでください。この仕事は、悲観的に備えることが大切です。私はこの経験がなければ、いずれ私は取り返しのつかない事態を招いていたかも知れません。

プロフィール

氏名 清水道浩(しみずみちひろ)41歳

所属 茨城県稲敷広域消防本部高度救助隊隊長

階級 消防司令

拝命 平成8年4月

趣味 剣道、柔道、全国穴掘大会優勝(目標)

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【パンダホール】

主張
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