180225「ノームを育てよう」

 
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救急隊員日誌

「ノームを育てよう」

2018年2月25日日曜日

「脱いだ活動服、編みあげ靴を一列に揃えさせるのに一年もかかったよ」

日本で一番大きな消防に勤務する彼は僕にそう言った。彼はそのことを「ノーム」と言った。日本語だと「規律」とか「規範」と訳されるようだ。

 例えば子供の参観日。「ここは大事なところだから鉛筆を置いて先生の話を聞きなさい」と話す。ほとんどの子供が鉛筆を置いたが、中には数名鉛筆を持っている子供がいる。すると先生は、少し声を強めて「鉛筆を置きなさい。先生の声が聞こえませんか?」と問いかける。ところがまだ一人、前の子の背中に隠れて書いている子がいる。後ろから見ているとバレバレだ。「○○さん!鉛筆を置きなさい!先生のいうことがわからないなら前に出てきなさい!」ここまで言うと彼はビクッとし、さすがに鉛筆を置いた。おそらく参観していた親の半分は彼と同じようにビクッとなっただろう。この瞬間、その教室にあるノームが発生したと言える。「この先生が鉛筆を置けと言えば、鉛筆を置かなければならない。」これが数週間経つと、「この先生の指示には従わなければならない。」と言うノームが出来上がる。ノームには肯定的ノームと否定的ノームの2種類があって、今のは肯定的ノームというのだそうだ。

 例えば、社長が「会議の開始時刻は午後2時だ。時間厳守だ。」と言ったにもかかわらず、2時を1、2分過ぎなければ全員が集まらない状態を放置したとする。するとやがて「会議の開始時刻を厳守しなくてもよい」これがノームとなって、今まで厳守していた社員まで遅刻するようになってしまう。このような状態を否定的ノームという。一旦否定的ノームができると、あれよあれよという間に組織に影響を及ぼし、やがて組織を崩壊すらさせると彼は教えてくれた。

 小学校でも教えている肯定的ノームが、なぜ消防に浸透させるのに1年もかかったのですか?と彼に質問すると、「私が毎日職場にいないから」なのだそうだ。肯定的ノームは、相手に意識を埋め込むものだから中途半端が一番いけないのだという。活動服を揃えなければいけないという一つの肯定的ノームも、ある上司が、部下の前で適当に活動服を脱ぎ捨ててしまえばたちまちノームが崩れてしまう。挙句の果てに、この先輩の前では活動服は揃えるが、この先輩の前では適当でOKという場合分けされたノームが発生する。果たしてその先輩が両方いたらどっちに従うのか。きっと現場は混乱するだろう。

 消防は組織活動の最たる職場。縦社会というと悪いイメージが湧きやすいが、規律規範が徹底されていると言えば聞こえがいい。外に出る時は帽子をかぶる。服装に常に気を使う。脱いだ活動服や編み上げ靴は一列に並べる。当たり前のことを当たり前にさせることが組織作りの第一歩だ。さてさて日本一大きな消防では1年かかる大事業。あなたの職場ではどのくらいの期間が必要だろうか。きっとその大変さは想像以上に違いない。

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