050606やると難しいCPR
最新救急事情
やると難しいCPR
私たちが一般の人に教えたり、学生に教えたりしている時には「自分が教科書です」と言わんばかりに教えているのだが、さて実際に現場でやってみるとちゃんとできているんだろうか。そんな疑問を一気に解消する論文が出たので、今回はそれを紹介する。
押しが足りない現場での蘇生
まずは救急現場での蘇生として、ストックホルム、ロンドン、アカーサス(ノルウエイ)からの報告1)を紹介する。1年半の間に発生した成人CPA176名を対象とし、患者の胸につけたセンサーでCPRの様子を記録し、あとで解析を行った。蘇生を行ったのは救急隊員と麻酔担当看護婦である。その結果、心マをしていない時間は蘇生行為中の実に48%(5分蘇生するとして2分24秒)に及び、その中断時間は心電図チェックと除細動に費やされていた。心マの回数は毎分121回であったが、この中断を考慮すると毎分64分になってしまう。心マの深さの平均は34mmしかなく、これはガイドラインで推奨されている38-52mmに及ばなかった。またガイドラインで推奨されているリズムで押している症例も42%しかなかった。人工呼吸の回数は毎分11回であった。176人中61人(35%)の患者に自発呼吸が戻り、5人が神経学的後遺症なく退院した。
心マの深さについて勉強会に参加した救急隊員にぶつけてみると、「そうだろうな」という反応であった。自分たちでも押しが足りないと思うことが多いらしい。心マの中断時間については、5分間のうち自分たちはせいぜい30秒程度しか中断させていないと思っていたらしく、驚いたという反応が多かった。
床で変わる押しの深さ
ところが、押しの深さについては一概に救急隊員たちの自覚が足りないとも言い切れないようだ。それは患者がどこに寝かされているかで押しの深さが変わってしまうためである。マネキンでの実験だが、布団を敷いたら心臓を押す深さが変わったという実験3)がある。心肺蘇生の訓練を受けた4名がマネキンに対して蘇生手技を行った。マネキンの下にはエアマットが敷いてあり、そのマットの堅さは4名には分からないようになっている。マネキンを床に置いた時にはきちんとした深さ(平均42mm)でマッサージができたのにも関わらず、エアーマットを敷くだけで途端に押しが浅くなり、特に堅いマットと柔らかいマットでは30-37mmへと深さが減少した。
救急隊員がフローリングの床に寝ている患者の心マをすることはまずないだろう。布団の上だったり、ストレッチャーの上だったりするだけで押しが浅くなってしまうらしい。
吹き込み過ぎる病院での蘇生
病院内での蘇生については、シカゴ大学での報告2)が出ている。2年半の間に病院内で心肺停止になった67名についての研究である。それぞれの蘇生の経過を30秒で区切り、それぞれの区間での行為を検討している。その結果、心マの回数は蘇生時間の3割では毎分90回に達していなかった。また4割の症例で心マの深さは38mm未満であった。人工呼吸の回数はものすごく多くて、60%で毎分20回以上送気していた。心マを中断する割合は経過中の24%(5分間の蘇生で1分12秒)、10秒以上の中断に限っても17%(5分中51秒)にもなった。27名(40%)の患者で自発呼吸が回復し、7名(10%)が退院した。
バッグマスクの回数については確かに言われる通りである。自分もそうだし、看護婦さんたちに聞いても「20回くらいはバッグを押している」という返答であった。いっぱい吹き込めばそれだけ生き返るような気がする。心マの深さについても、布団の上であっても床の上であっても構わずガンガン押している。
心マの回数が少ないと
心マの回数が少ないと本当に蘇生率は悪くなるのだろうか。シカゴ大学のチームが違う雑誌に報告4)している。対象とした患者は前掲の論文と同じで、全体の区間の37%で心マ回数は80回未満、21%で70回未満であった。心マ回数が高くなるに比例して自発循環の回復率が高くなり、循環回復者の心マ回数は毎分90回、回復しない患者の回数は毎分79回であった。この結果を受けて著者らはCPR手技の日常からの研鑽とフィードバックシステムの重要性を説いている。
心マの回数くらいで蘇生率なんか変わるのかなあ、というのが正直なところだが、しっかりしたデータなので本当なのだろう。
増える心マ回数
連続した心マ回数を増やすほど平均血圧と冠状動脈血流量が増える。これが1:5から2:15になった根拠の一つである。さらに次期のAHAガイドラインでは心臓マッサージの回数が大幅に増える方向で議論が進んでいる5)。その根拠は直接には心肺蘇生モデルでの検討や動物実験の結果だが、現場での蘇生では時間の半分で心マをしていないこともその議論を後押しするだろう。ガイドラインの見直しは今年。またどんなふうに変わるか楽しみである。
1)JAMA. 2005 Jan 19;293(3):299-304.
2)JAMA. 2005 Jan 19;293(3):305-10.
3) Resuscitation. 2001 Nov;51(2):179-83
4) Circulation. 2005 Feb 1;111(4):428-34.
5)JAMA. 2005 Jan 19;293(3):363-5.
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