100827Discovery and Experiences 経験から学べ!(第2回)状況評価

 
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基本手技



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Discovery and Experiences 経験から学べ!

第2回

状況評価

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Discovery and Experiences 経験から学べ!

講師

栗栖 大(くりす だい)

所属:函館市消防本部
年齢:33歳
趣味:ゴルフ(最近ご無沙汰になってしまいました)
消防士拝命:平成9年
救急救命士資格取得:平成9年
JPTEC Instructor
ICLS 日本救急医学会認定 Instructor
DMAT


状況評価(第2回)

 状況評価とは

現在,標準教育プログラムとして確立しているJPTEC(TM),PSLS,PCEC等では「出場指令から傷病者接触まで」を状況評価と定義している。しかしながら,消防全体で考えると「119番入電から傷病者接触まで」と考える方が適当であるというのが私見である。出場指令内容や出場途上の支援情報から現場状況を予測し,通報者および傷病者ならびに関係者から状況等を聴取しながら現場を評価し,活動方針を決定していく必要があるからだ。状況を想定しながら最大の効果をもたらす現場活動方策を最初にコーディネートする,いわば消防活動のスタート地点である。私自身,指令員として従事したことがないため,これ以上の具体的な話はできないが,救急隊員として出場する際には,このような意識で指令内容を聴いている。


ケース1

21時33分「花火大会会場付近にて車対人の交通事故,20代女性が負傷しているもよう。現場警戒に従事している指揮隊および消防隊も出動中。」との指令にて出場した。

指令員「現場周辺は多数の車両がおり現場到着遅延が予想されるため,通報者へはその旨伝達済みである。安全確保に十分留意し現場へ到着されたい。」
救急隊「了解。現場に到着している警察官に対し,消防車両の進路確保を依頼されたい。」
指令員「依頼済み。」
救急隊「傷病者の受傷程度について詳細情報はあるか。」
指令員「通報者は興奮状態で一方的に切断された。さらに周囲の音が大きく,再度聴取を試みるが困難と思われる。」
救急隊「了解。」

 その後,出場中の救急車内で隊長から「現場は混乱状態で,傷病者は大衆監視下にさらされていることが予想される。部署後,初期評価および簡易な全身観察を実施,傷病者をバックボードにて車内収容する。その後,隊員は事故車両運転手の受傷有無および事故概要の把握,機関員は傷病者の関係者の有無,さらに関係者確保後に同乗の有無について早急に確認し救急車へ戻れ。全員乗車を確認後,現場を離脱し安全な場所にて再観察および処置を実施する。現場離脱までは車両安全確保を優先するため,自分は車長席に乗る。隊員は傷病者管理せよ。」と隊としての初動活動方針について徹底が図られた。

拡大 現場に到着,救急隊が最先着であった。男性1名(後に加害車両の運転手と判明)が5名の男女(後に傷病者の友人と判明)と胸ぐらをつかみ合いながら罵声を浴びせあっており,その横に傷病者が歩道上で仰臥していた。


 この花火大会は来場者数が約70,000人となる地元では有名な大会である。当初から予想していた通り,現場は多数の人が入り乱れており,観衆の中にはアルコールを摂取し興奮状態になっている者も多かった。傷病者は意識レベルJCS1程度で外観上大きな損傷はなく,後に確認したところ,事故後の精神的動揺で起き上がれなかったとのことであった。傷病者を車内収容後,隊員および機関員はそれぞれの任務を全うすべく活動したが,他に傷病者がいないことのみ確認するも,それ以外は確認に至らなかった。その旨の報告を受けた直後,現場離脱優先を判断して出発した。無線にて後着の指揮隊および消防隊に他の傷病者の再確認および事故概要の確認を要請した。

 ケース①の検証
今回のケースを項目ごとに整理してみたい。

(1) 出場場所
  花火大会終了後の会場付近歩道上であり,群衆および多くの車両が認められた。指令員から指揮隊および消防隊の出動,警察官の応援要請が早期に行われ,現場活動の安全確保手段は図られた。結果として,救急隊が最先着となり,3名での現場活動には限界があり早期の現場離脱となってしまった。

(2) 事故種別
  交通での出場指令に基づき,感染防御と並行し安全確保のための装備を事前に着装でき,さらに携行資器材の選定も具体的に行うことができた。

(3) 傷病者数
  女性1名との指令内容だったため救急隊1隊の出場であったが,多数の人がいること,通報者から詳細な状況が確認できなかったこと等を考慮し,初動から増隊すべきだったと課題が抽出される。今回は結果として傷病者1名であったが,今後,類似事案が発生したときには参考としたい。

(4) 事故概要
  119番入電時および現場到着時には詳細を把握できなかった。今回のケースでは事故内容の詳細は聴取困難であったことは明白であるが,事故車両運転手からの聴取を試みる必要はあったと考える。現場離脱後,傷病者からの聴取内容は「帰宅するため友人と歩いていたら,急にバックしてきた車にはねられた。気がついたら友人に声をかけられていた。」とのことであった。現場には同年代と思われる若者が多くおり,誰が友人かは判明しなかった。また,隊員から他に負傷者がいないかと周囲の人々に声をかけたが返事をする者もいなかった。振り返ると,ともに歩いていた友人の中には車両と接触した者もいなかったとは断言できない。もう少し時間をかけて他の傷病者の有無を確認すべきだったと課題が抽出される。ただ,後着の指揮隊および消防隊へ再確認を要請したことは良かったと考える。

(5) 出動車両編成
  先にも述べたが,救急車の数に余裕があれば増隊を考慮することも一つの手段である。しかしながら,この日は街全体がお祭りムードであり,いつ他に救急要請が発生するかは予測不可能であった。課題は抽出されたものの絶対的な結論を見出すことはできないと考える。また,救急隊のみではなく,現場警戒に従事していた他隊を向けたことにより,救急隊離脱後の現場活動が継続された。さらに救急隊が現場離脱する際,消防隊が現場到着し,進路の安全確保および誘導に従事してもらい,救急隊のみでは不足しているマンパワーを補うこととなった。また,救急隊の複数出場時においては,先着救急隊が最終傷病者搬送を担当し,活動終期まで現場に留まり,現場指揮を補佐しなければならないと考える。

(6) 他機関への応援要請
  今回のケースでは,警察への応援要請が必要不可欠であった。実際,救急隊が現場離脱した後,警察官が臨場し事故概要の把握が早期に行える状況となった。事故の詳細を把握した指揮隊から救急隊へ情報伝達があったため,救急隊も医療機関への情報提供が詳細に行えたことのみならず,以後の観察・処置に役立てることができた。

(7) 通報者の状況
  現場において,救急隊では通報者を発見できなかった。結果的に傷病者の友人の一人が通報したと判明したが,現場での救急活動中には呼びかけたが申し出る者がいなかったのである。仮に通報者を救急活動中に確保できたとすれば,早期に事故概要の詳細が把握可能だったのかもしれない。もう少し時間をかける方法もあったと課題として抽出される。

 言うまでもなく,課題を抽出しながら振り返りを行うことは,以後の活動への糧となる。とくに今回のケースのような特殊事案であれば,なおさらであろう。

 今回のケースを総体的に検証するにあたり,私は救急活動の安全確保について着目したい。仮に,現場到着後から活動方針を決定し,活動を開始していた場合,今回のような活動はできなかったであろう。出場時から状況評価を行ったことが,この結果をもたらせたと考える。実際,現場離脱後の救急活動は日常の訓練に類似し,基本に沿った活動内容であった。

 指令員からの情報による現場状況および通報者の把握,それに伴う具体的な活動内容の指示があったため,一旦分散した救急隊員が早期に集結し,かつ必要最小限の時間内に任務をこなすことができたのである。そのことが早期の現場離脱を可能とし,結果として救急活動の安全が担保できたと考える。さらに,消防隊の早期現場到着により救急車が安全に現場離脱できたことも挙げられる。

 このような視点で考えると,状況評価は119番入電時から始まると考える必要がある。


ケース2

 10時13分「20歳男性が呼吸を苦しがっている。母親からの通報。」との指令にて出場した。

救急隊「傷病者の病歴は何か。」
指令員「聴取を試みるも早く来てと繰り返すのみで返答はなかった。電話の後で若い男性が叫んでいる声が聞こえ,さらに別の女性が大きな声で嗜めているのも聴取された。」
救急隊「了解。」

 現場到着,自宅への誘導者はいなかった。玄関をノックすると,ドア越しに「早く入ってきて。」と叫ぶ声があり屋内へ進入,玄関には多くの靴が乱雑に脱ぎ捨てられていた。靴から男性のものと年配女性のものが多数,若い女性のものは1足であることが視認できた。さらに居間は物が投げられ散乱している状態で戸棚のガラスも割れ,食器類も複数枚割れていた。靴カバーを装着して室内に進入,声のするドアを開放した。

拡大

女性2名で傷病者を抑えている状態で傷病者は,ひたすら苦しさを訴えている状況であった。室内を見渡すと,床には多数の吸殻や飲みかけと思われるペットボトルが数本散乱し,壁のポスターが引き裂かれていた。傷病者は不穏状態,顕著な喘鳴音はなく,胸や頸部に手をやり苦しがる仕草も認められず,力みにより顔面の血管がうっ血し,一点に向け突進しているように感じられた。


 隊員の安全確保を図りながら,女性2名から傷病者を引き継いだ。通報者である母親から「30分ほど前から急に苦しいと暴れ出した。喘息などの病歴はない。もう1名の女性は彼女である。彼女は昨夜から泊まっている。普段は傷病者と2人暮しである。」と聴取した。彼女は何かを言いたそうな素振りをしていたが何も言わず,傷病者を心配そうに見ている状況であった。その後,傷病者から「薬が切れた。」という一言があり,指差した方向にある収納ケースから白い粉の入った袋を発見した。すぐに警察官を要請,臨場後に傷病者を車内収容し病院へ向かった。

ケース2の検証

(1) 出場指令
  呼吸苦との内容だったため,現場の慌てる状況には特に疑問を抱かなかったことは振り返ってみると大きな課題の一つである。共同住宅2階から傷病者を安全に搬出できるかを考え,搬送支援のため消防隊を要請することも選択肢として持ちえるべきである。さらに逼迫した状況であればあるほど,早期の判断が必要となることは当然のことであろう。今回のケースでは,傷病者が告白した後,症状が緩和され安全な搬出となったが,以後の出場では考慮する必要がある重要項目である。

(2) 傷病者数
  少ない情報から傷病者数を把握することは困難であり,今回のケースのように急病人1名との指令内容であれば,他の傷病者とは考えつかないのが現実である。しかしながら,現場状況から大きな外傷を負う者も出ないとは言いがたいことを考えると,現場到着後すぐに確認すべきだったと課題が抽出される。

(3) 出動車両編成・他機関への応援要請
  先に述べた点以外にも玄関のドアを開け進入した室内の状況を考えると,単なる急病とは考えにくいことを早期に察知すべきだったと課題が抽出される。実際,傷病者と接触した後の警察への応援要請は,傷病者を抑えながら携帯電話による要請で非常に困難であった。また,消防隊の支援要請を行わず,警察官が臨場するまで現場離脱できなかったことも課題である。指揮隊等を要請し救急隊が現場出発後に現場活動を継続できるような体制を構築することが肝要だったと考える。

 今回のケースでの最大の課題としては,日常から出場している急病という事故種別に対しての状況評価がしっかりとなされていない点であろう。急病であるという先入観から出場指令や現状を視認しても早期の評価・対処には至らなかった。救急隊としては出場指令を聴いた段階で十分な状況評価を行い,そのときに対処できないことも想定として現場に進入することにより,今回のケースよりも早く判断に至ったと考える。結果として,無事に活動を完了するに至ったが,別の結果が生じないと否定することはできないであろう。

まとめ
 今回紹介したケースは結果的には特殊なものであったが,ケース2のように出場件数の多い「急病」からスタートすることもある。日常から状況評価をしっかりと行い,現場活動の妨げを回避し,救急活動の安全確保や迅速性を担保することを怠ってはならない。多種多様な救急出場が増加してきている現代だからこそ,初心に戻り再確認することは大いに意義のあることだと思う。想定しにくい状況を察知し対処するためには,出場の振り返りは然ることながら,机上での想定訓練等で一つの状況設定から多くのイメージを膨らませる能力を養うことも大切なことである。加えて,状況評価は初動だけという先入観と認識は誤りである。活動中は常に状況評価を継続し,活動方針を適切に切り替えていかなければならない。
 今回は,救急活動の安全確保に着目して状況評価を綴ってみた。次回は別の視点から再度状況評価について考えたい。


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10.8.27/9:12 PM

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