鼓膜体温計を寒冷暴露することにより生じる測定誤差の検討

 
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HTMLにまとめて下さいました粥川正彦氏に感謝いたします


目次

原著・投稿

鼓膜体温計を寒冷暴露することにより生じる測定誤差の検討

北海道・留萌消防組合消防本部:著者連緒先:〒077−0021北海道留萌市高砂町3−6−11
   菊池智人・中路和也・柴崎武則
旭川厚生病院麻酔料
   玉川進

 はじめに

 救急活動時において患者の体温を測定するのはバイタルサインの一つとして重要である。以前は電子体温計のみを使用していたが、体温測定に時間がかかり、小児や不穏状態の患者の測定に苦慮した経験があった。我々留萌消防署で平成9年5月より高規格救急車に積載して活用している鼓膜体温計は、15℃以上の環境では、電子体温計や水銀体温計とは違い2秒という早さでの測定が可能である1)ため、小児や不穏状態の患者の体温測定には最適である。また、耳にプローブを挿入することから、服をたくさん着込んでいる患者にも有用である。測定範囲も15.6℃から43.3℃1)と、電子体温計では測定不能な体温まで測定することができる。しかし、使用環境温度が15℃以下での測定で異常な測定値を認めたことがあり、冬の長い北海道では信頼性に欠ける面がある。そこで、環境温度が鼓膜体温計に及ぼす影響を調査した。対象と方法 留萌消防署で使用している鼓膜体温計(ジニ アス3000A−03、日本シャーウッド社製、図 1・2)を用いた。

図1拡大

図2拡大

冷蔵庫に鼓膜体温計を30 分以上放置して冷却した。このときの冷蔵庫内 の温度を環境温度とした。次に体温計を取り出 して、室温下で直ちに鼓膜温を測定した。測定 手技は、測定者の利き腕で鼓膜体温計を持ち、 もう一方の手で挿入された側の耳介部を後上方 に引き上げ外耳道を直線化し、反対側の眼球を ねらって鼓膜温計を挿入し測定した。測定者は 著者、被検者は健康な救急隊員3名、測定は1 人につき5秒以内とし、1名測定するごとに冷 蔵庫に30分以上収納して鼓膜体温計を冷却し た。また、鼓膜温測定と同時に腋高温を室温に 放置した電子体温計(C21、テ ルモ社製)を用いて測定した。 電子体温計では信号音が鳴り予 測体温が表示された時点の値を 記録した。環境温度は−20℃か ら24℃まで2℃刻みで測定し た。

 統計処理には回帰分析を用いP<0.05を有意とした。

結果 環境温度一20℃では鼓膜温は 33℃台であった。環境温度の上昇とともに鼓 膜温は有意に上昇し、環境温24℃で37.5℃にな った(図3)。腋窩温の平均値は36.2℃であっ た。

図3拡大

環境温 鼓膜温A 鼓膜温B 鼓膜温C -2033.83333.2-1835.235.535.3-1635.236.235.4-143636.236-1236.134.435.4-1036.436.135.7-836.236.435.7-636.235.236.2-436.135.535.5-236.436.636.2036.236.636.1236.33636.2436.536.136.363735.937837.935.737.11036.536.537.21237.53737.61437.336.937.71637.237.137.11837.237.237.52037.337.637.42237.937.337.72437.537.437.5考察 鼓膜は内頚動脈により潅流されており、その温度は体温中枢である視床下部温を反映するといわれている2)。また肺動脈温を対象とした場合、鼓膜温と肺動脈温はほぼ一致し、腋窩温に比べてばらつきが少ないことも示されている3)。今回我々が用いた鼓膜体温計は、鼓膜から放射される赤外線エネルギーを測定し体温に換算するものである。

 救急隊が鼓膜体温計を体温測定に用いる場合、大きな障害となるのが環境温度の制限である。救急隊が体温計を用いる現場の気温状況は様々で、北海道などの気温の低い地域では、冬期間になると15.6℃を気温が下回る。ジニアス鼓膜体温計は使用環境温度として15.6℃から35.0℃までしか保証していないものの、保管環境温度として一20℃から50℃と広い範囲での保管を認めている1〉ため、真冬に外気に暴しても使用環境温度が適切ならば正確な値が出るはずである。ところが、我々の結果では体温計が暴露される温度が低ければ低いほど表示される鼓膜温も低くなった。これは冷却されたプローブにより外耳道が冷やされるためと考えられる。

 赤外線式鼓膜体温計の実測値は鼓膜とその周辺粘膜の平均温である4)ため、一部分が冷やされると表示値が低下してしまう。亀山ら5)は氷枕によって鼓膜体温計の値に変化が出ることを示しており、耳介に冷たいものを当てるだけでも測定値は信頼できなくなるため注意が必要である。また、−20℃の暴露で鼓膜温が−18℃と比べて大きく低下したことにより、寒冷が赤外線センサー自体に何らかの影響を及ぼしたことも否定できない。

 留萌消防署の高規格救急車が待機している車庫での車内温は1月から3月には12℃から14℃である。現場に到着する時間を考慮しても、体温計本体が暖まるには時間が足りず正確な測定ができない可能性がある。寒冷地では降雪などにより11月から4月の期間については電子体温計との併用が望ましいと考える。

結語 鼓膜体温計は環境温度の影響を受ける。このため、外気温が使用環境温度を下回る地域で鼓膜体温計を使用する場合は、電子体温計の併用が望ましい。【文献】
1)日本シヤーウッド株式会社:赤外線鼓膜体温計ジニアス取扱説明書.
2)川嶋隆久:集中治療室でのモニター機器深部体温測定器(鼓膜温を含む).救急医学1995;19(10):1449−1452.
3)Erickson RS,Kirklin SK:Comparison ofear-based,bladder,Oral,and axillarymethods for core temperature measure−ment.Crit Care Med1993;21(10):1528−1534.
4)Terndrup TE:An appraisalof tem−Perature aSSeSSment byinfrared emissiondetection tympanic thermometry.AnEmergMed1992;21(12):1483−1492.
5)亀山しおり,相引真幸,香川裕子:ICUにおけるクイックサーモ(R)(MC−500)による鼓膜温測定の有用性と問題点.ICUとCCU1994;18(8):831-836.


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06.10.28/11:27 AM





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