月刊消防「Voice#31」 2018/7月号 全ての傷病者とその家族の思いに寄り添って

 
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主張
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月刊消防「Voice」全ての傷病者とその家族の思いに寄り添って

 救急隊は、急病や交通事故など様々な救急現場に出動しています。救急救命士制度が確立されるまでの救急業務は、傷病者を病院へ搬送することを主体としていましたが、救急救命士法の施行後には除細動等の処置が実施可能となり、現在ではメディカルコントロール体制の充実を前提とした救急救命士の処置範囲の拡大により、心肺機能停止前の重症患者に対する静脈路確保及び輸液等の救急救命処置を実施することが可能になるなど、病院前救護体制の充実が図られています。

 救急業務は緊急性が高いことから、一刻も早く災害現場や医療機関に到着する必要があります。傷病者や同乗者の命を預かる機関員は、安全で確実な運転を心がけ、急なハンドル操作や加減速を慎み、揺れを最小限にした運転を身につけなければなりません。

 最近の車は、気密性が高く、緊急自動車が近づいても気づかず、直前で慌てて急ブレーキをかける一般車両もいることから、適正な車間距離を保つことは非常に重要なことです。また、安全で最短距離を選択するためには、日頃から管轄地域の道路事情の把握に努め、不案内な場所があれば、自らの目で確認するなど事前準備、心構えが必須要件となります。

 救急現場活動では何よりチームワークが大切であることから、若手隊員に対しては、常日頃から隊員間での情報共有が大切であることを伝えていました。しかし、先日、傷病者を思う家族の気持ちに寄り添うことができていなかったのではと感じる救急現場での出来事がありました。

 家族に現病歴を聴取した隊員が、その内容を傷病者の側にいた私に報告した瞬間、家族の表情はこわばり、その場に緊張感が張り詰めました。その表情から私は、家族が病歴を伏せてほしいのだなと感じ取りました。後で聞いたところ、この傷病者は癌の現病歴がありましたが、本人告知をしていなかったのです。今回は、たまたま傷病者の意識状態が悪く、本人に伝わらず事なきを得ましたが、あやうくこれまでの家族の思いをふいにしてしまうところでした。

 一昔前は、「悪性腫瘍」イコール「救いようがない病気」と考えられていた時代もあり、治せない病気だから、せめて本人がつらくならないように病名を伏せておこうという傾向がありました。癌も時代とともに「治すことができる病気」になり、早期の癌であれば、内視鏡手術等で完治できる時代になってきました。時代の経過や考え方の変化など、医学の発展により、自らの癌を知ることで、意志をもって病気と向きあうことが大切だと考えられるようになったからです。しかし、家族の意向により、本人未告知の場合があることを頭において救急活動をしなければ、本人やその家族に寄り添うことはできません。

 救急隊員は救急現場や災害現場で傷病者に最初に接するため、傷病者やその家族の不安を取り除くことも重要な役割の一つです。救急出動は私たちにとっては1日何件かのうちの1件ですが、傷病者やその家族にとっては一生に1度の経験かもしれません。常に傷病者とその家族の気持ちに真剣に向き合い、11件丁寧かつ確実な活動をすることが大切です。

 救急医療の一端である病院前救護を担う重い職責に自覚を持ち、今後も傷病者とその家族に寄り添える救急救命士を目指していきたいと考えています。

 

☆著者紹介☆
渡邉 康之(わたなべ やすゆき)  37
今治市消防本部
消防士拝命 平成194
救急救命士合格 平成273
趣味 陸上競技、家庭菜園

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