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191219_VOICE(46)二つの救急現場

月刊消防2019/11/1号 p65

Voice#46

永冨康弘(ながとみやすひろ)

名前永冨康弘(ながとみやすひろ)

所属唐津市消防本部消防署東部分署

出身福岡県福岡市

消防士拝命年平成11年

救急救命士合格年平成17年

趣味ドライブ

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消防士拝命から20年。救急救命士の資格を取得し14年。祖父を救った救急救命士に憧れ消防の道を選んだ。主に救急業務に携わってきたが100点満点という活動には中々出会えない。今も帰署中の救急車のなかで反省することしきりである。

二度と同じ現場はない。しかし相似した事案が発生したとき、自分が経験し学んだことを伝えていくことが私と同じトラップに行き詰まった誰かを救う事になるかもしれない。その考えの上に私が経験した二つの救急現場を紹介したい。

1

季節は真冬の早朝。通報内容は30代男性が高熱で動けないもの。インフルエンザが猛威を振るった年で高熱というキーワードは私の脳内でインフルエンザと直結した。その現場は一週間前にも幼児が高熱を出しているとの内容で出動していた。その幼児はインフルエンザだった。その現場を思い出し、ますます私の脳内はインフルエンザと強固に結びつく。傷病者は2階の布団の中にいた。高熱はあるが布団から露出している部位は極度に冷たい。暖房はついておらずとてつもなく寒い室内。SpO2、血圧測定するも測定値はいずれも低い。第一印象「高熱なのに末梢冷たいなぁ。部屋が寒いから?」

重篤さは感じ取れず、肺炎も疑い酸素投与を開始した。先週搬送したお子さんがインフルエンザであったことを笑顔で会話しながら現場を出発した。車内では保温、加温しても改善しない抹消の冷たさに違和感を感じながら病院選定にあたった。当日は満床の病院が多く休日の早朝でもあり搬送先は救命救急センターに決まった。傷病者に搬送先を伝えた後、手術歴を聴取していなかったことに気づくと・・・「若い頃脾臓を摘出しています。」

しかし、先入観にとらわれた私はこの言葉を頭の中で整理できず病院へ収容。医師に脾臓摘出を伝えたところ処置室の空気が変わった。

この傷病者は脾臓摘出後の肺炎感染症によるショック状態であった

時間ロスもなく、高濃度酸素を投与しつつ、救命センターに搬送することができたがそれは結果論である。インフルエンザが流行しているから。若いから。冬だから。重篤感を感じなかったから。すべて先入観や思い込みである。

先入観や思い込みは記憶であって過去のもの。「今ここ」に意識を集中させることの大切さを忘れてはいけない。常に高い意識をもって現場に臨むことは言うまでもないが、慢心している自分に気づいたとき、この現場を思い出すようにしている。

2

桜の花が咲く頃、帰署中の救急車内での指令。飲酒中に転倒し後頭部を打撲している。指令員から現場住宅が地図上にないとの情報が入り、現場があると思しき地区を注意して走行し誘導者と遭遇した。車を降りるなり家族から厳しい口調で「おまえ達はどっからきた救急車だ?なんでこんなに時間がかかるとか。」・・・実際は指令から2~3分で現着しているのでかなり困惑した。冷静な対応を心がけたが複数の家族の憤りは、現場でも救急車内でも収まることはなかった。険悪な車内であったが、処置が落ち着いたところで事の顛末をきくことにした。

家族は受傷した直後から119通報していた。ところが通報場所が地図上にないため現場の把握に相当の時間を要していたことがわかってきた。そこで家族は最寄りの消防分署に一般電話で通報したが出動のため留守番電話。そのため走って直接救急車を呼びに行ったこともわかったが消防分署は施錠され無人。この絶望が最初の救急隊に対する憤りに繋がったのである。

事の顛末からこの場で救急隊と家族のわだかまりを解決すべきと判断し、傷病者を病院収容後、家族の元へ行き119通報から指令までのシステムの説明、今後の改善点を含め真摯そして真剣に対話した。病院の待合室で対話すること30分。家族の憤りは嘘のように消え表情もにこやかに「もう大丈夫だ。現状を変えるためにはおまえが偉くなるしかない。それを応援する。」と言葉をかけていただいた。初期対応の重要さ、誠実な対応、そして接遇の大切さを痛感した時だった。

救急活動は人対人の信頼関係に成り立っていることを忘れないこと。必ず誠実な思いは心と心で伝わる。そのために対応や接遇スキルを磨かなければならない。現場で辛い言葉、悲しくなる言葉をかけられたとき必ずそこには何かしら理由がある。誠意ある接遇で対応すれば人対人は必ずわかりあえる。辛く悲しい言葉を現場でかけられたとき、私はこの現場を思い出すようにしている。

今まで出動したすべての現場から学ぶことは数多くあったが、この二つの現場はその中でも貴重な教訓を学ぶ現場だった。現場活動には様々な物理的、心理的トラップが潜んでいる。そこに行き詰まったとき少しでも解決の糸口にしていただければ幸いである。

最後に一言。「あなたにとって救急活動とは?」と問われたら、私の中には正解はない。それは先入観や思い込みかもしれないから。

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