近代消防2020年3月号
今さら聞けない資機材の使い方
「ターニケット」
目次
1.はじめに
はじめまして、兵庫県高砂市消防本部高砂消防署の足立有哉と申します。今回の今さら聞けない資機材の使い方では近代消防2019年7月号にも掲載されています「ターニケット」についての活用と当地域での研修について執筆させてもらいます。
2.ターニケットとは
ターニケットとは一言でいえば止血帯です。環状になったバンドに腕や足を通して締め上げ止血するものです。ターニケットを用いることにより早期の出血コントロールを可能にし、大量出血による防ぎえた外傷死を防ぐものです。当地域ではNorth American Rescue 有限責任会社が販売しているC-A-Tターニケット(以下CAT)を使用しています。
3.非救急隊員が使用するには講習受講が必要
消防職員がターニケットを使用することは、それが止血目的であっても「業(仕事の一環)として」多数の傷病者へ「繰り返し」行われることになります。医師以外が医療行為を業として行うと医師法違反となるところですが、救急救命士は救急救命処置としての、救急隊員は応急処置としての使用と解釈できます。では救急の資格を持たない消防職員がターニケットを使用することは医師法違反となるのでしょうか。
厚生労働省の見解*では「テロ災害等の対応向上として、多数傷病者が発生している場面等、医療従事者の速やか対応が得られない状況下で、消防職員(救急隊員等を除く。)が重度の四肢の大出血に対して止血帯による圧迫止血を行うことは緊急やむない措置として行われるもの」であって、表1に示す2つの条件を満たせば医師法違反とならないとしています。
*消防庁:テロ災害等の対応力向上としての止血に関する教育テキスト(指導者用)(案)。平成30年
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表1
非救急隊員がターニケットを使用するための2条件
①傷病者を医療機関がその他の場所に収容し、又は医師等が到着し、傷病者が医師等の管理下の置かれるまでの間において、傷病者の状態その他の条件から応急処置を施さなければその生命が危険であり、又はその症状が悪化する恐れがあると認められること。
②使用者が、以下の内容を含む講習を受けていること。
・出血に関する解剖生理及び病態生理について
・止血法の種類と止血の理論について
・ターニケットの使用方法及び起こりうる合併症についてなど
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4.ターニケット研修会
厚生労働省の見解と消防庁の方針を受け、当地域でも研修会を開催しています。メディカルコントロール(MC)医師と代表消防本部によりインストラクターを養成し、それらインストラクターが所属する消防で伝達研修を開くことで消防職員全員がターニケットを使用できるようになります。
研修は座学と実技を合わせて約3時間です。その後各消防本部で研修と効果確認を終了した職員が使用できるようになっています(図1)。
図1
研修会の仕組み
講習内容は以下の通りです。
⑴出血に関する解剖生理及び病態生理について
・出血理論
破綻性出血:外相や疾病によって血管壁が損傷した場合に生じる。
漏出性出血:うっ血、血管内障害、血管内皮障害にみられ、主に毛細血管の領域で血管内皮細胞の間隙が増大して生じる。
・重症度分類(表2)
血液量の15~30%以上を失うと頻脈、脈圧の減少といった症状が出現(中等度)する。30~40%以上では意識の異常を認め、輸液では対応困難となる。輸血や外科的止血(重度)が必要である。40%以では意識レベルが低下する。致死的な出血であり、速やかな輸血と外科的止血が必要である。
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表2
出血性ショックの重症度分類
ClassⅠ
15%未満の出血
軽度の頻脈を認め、血圧及び呼吸などの変化はない
ClassⅡ
15~30%の出血
頻脈、頻呼吸がみられ、脈圧が狭小化する
皮膚の湿潤、冷汗がみられ、神経症状が出現する
ClassⅢ
30~40%の出血
代償機転が破綻し、血圧低下、頻脈及び頻呼吸となる
意識レベルの低下を認める
ClassⅣ
40%以上の出血(致死的な出血量)
皮膚冷感で蒼白、頻脈、顕著な血圧低下がみられる
意識レベルの低下、心停止前には徐脈となる
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⑵止血法の種類と止血の理論について
・止血法の種類
直接圧迫止血:すべての外出血に対して第一選択の止血法頭部腰背部など深部に骨などの支持組織が存在する場合では効果が大きい
止血帯止血法:四肢の出血においてその中枢側を強く緊縛することによって止血する方法(ターニケット)
止血点止血法:四肢の動脈性出血で、圧迫止血によっても止血が困難な場合出血動脈の中枢側を強く圧迫し、責任血管へ流れる血液量を減らす方法。災害現場には適していない
・止血理論
一次止血:血小板が穴をふさぐことによる止血→血小板凝集固ができ、応急的な止血
二次止血:血液が凝固することによる止血→フィブリンができる
・推定出血量と止血点(図2)
図2
推定出血量と止血点
5.ターニケット使用方法(応用編)
(1)1つの装着でも出血が治まらない場合
001写真に X
1ヶ所では止血できない場合は
002写真に X
さらに中枢側にもう1ヶ所装着する。
(2)緊急に装着し安全な場所まで移動させ装着する場合
衣類が切断出来ない場合は、衣類の上から止血を行う。
003写真に X
危険の伴う場所での止血はまず服のから装着する。
004写真に X
安全な場所へ移動後衣類を切断する。
005写真に X
2つ目を中枢側に装着する
006写真に X
最初のターニケットを外す。
(3)小児例
当地域では小児にはターニケットを使用せず、他デバイス等を考慮します。世界的に見れば、小児であってもターニケットは広く使用されており、使用が推奨されてもいます**。文献**によれば緊縛圧は止血に必要な最小限に止めるとされています。
**J Trauma Acute Care Surg 2018:85:665-7
007
小児の使用例
008
小児の使用例。拡大
009
乳児の使用例
010
乳児の使用例。拡大。
6.ターニケットによる合併症
・装着に伴う激しい疼痛
・抹消部位の阻血
・再灌流による不整脈または心停止(クラッシュ症候群)
・神経障害
・筋力低下
・深部静脈血栓症
7.おわりに
私自身及び当消防本部においても使用実績がないため、ターニケット該当事案があれば積極的に使用していきたいと考えています。ターニケットは簡単に使用できますが、使用時におけるリスクを把握し、日ごろから資機材取り扱いの習熟を図り、隊活動を円滑なものにし、防ぎえた外傷死を防いで行きたいと考えます。
プロフィール
所属 兵庫県高砂市消防署
氏名 足立 有哉
アダチ ユウヤ
拝命 平成29年4月1日 消防士拝命
出身 兵庫県高砂市
趣味 釣り
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