プレホスピタルケア 2020/8/20日号 p89
最新救急事情(217-2)
骨盤骨折への対応
月刊消防2020年8月号の救急隊員日誌では、原因不明の血圧低下の原因として骨盤骨折を疑うべきであることを、自ら経験した事例を交えて報告している。その背景としてJPTECにおける骨盤骨折への対応が大きく変化したことがある。私は一時期JPTECインストラクターの資格を持っていたがすぐに流してしまい、今はJPTECとは縁遠い生活を送っている。そこで今回は自分の勉強も兼ねてフランスからの総説1)を読んでみた。この論文は心肺蘇生ガイドラインと同じくお勧め度がついており、Grade 1+は良い勧告、Grade 2+は良い推奨となっている。
201115救急隊員日誌(196) ショックの原因はなんだ?
月刊消防2020/8/1, p86月に行きたい「ショックの原因はなんだ?」 その事案は、工事現場で起こった。3メートル下に転落した作業員が呼吸苦を訴えており、足が変形しているという通報だった。顔面は蒼白で呼吸は早く、橈骨動脈も速く触れた。傷...
骨盤骨折とは
骨盤は1つの仙骨と尾骨、左右二つの腸骨・坐骨・恥骨からなる骨の複合体である。腸骨・坐骨・恥骨の3つは思春期を過ぎると癒合し、癒合したものを寛骨と称することもある。骨盤骨折は重症外傷患者の10%に見られ、外傷の重症度を決める重要な要素となっている。骨盤骨折からの出血をいかに早く止めるかが重症患者を救う鍵である。
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骨盤骨折のサイン
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現場で骨盤骨折を疑うのは骨盤の自発痛であるとしている。ショック患者や意識障害患者では自発痛を訴えないことがあるので、全てのショック患者と意識障害患者では骨盤骨折があるものと考えて行動する。Grade 1+
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自発痛とは何もしなのに痛いことである。私が習ったJPTECでは恥骨結合を押して痛いと骨折ありと判断していたので、振り返れば骨折部分を開かせて出血を助長させていたようだ。
筆者らが引用している文献2)では、5235例の重症外傷患者のうち骨盤骨折は441例で発生していたこと、さらにショック状態ではない患者であっても身体検索でほぼ100%骨盤骨折を診断できるとしている。これに対して筆者らは救急現場での骨盤骨折の検索は信頼できないとする。その理由として文献2)はグラスゴーコーマスケールが13以上の比較的意識がはっきりしている患者を相手にしているからと述べている。つまり、確認の難しい意識障害患者を相手にしていないのはおかしいと言いたいようだ。
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重症度の推定
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大きな外傷や出血に加えて骨盤の開放骨折があれば重症と判断する。Grade 2+
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骨盤骨折の主な原因は高所からの転落かバイク事故であり、それ以外のエネルギー量の少ない外傷で骨盤骨折を起こすのは患者が65歳以上であることが多い。救急隊員日誌では年齢不詳ながら高さ3mから転落した例が示されている。骨盤骨折患者の死亡率を高める病態は危険度の高い順に頭部外傷、胸部外傷、腹部の重症外傷の順となっている。同様に出血性ショックと骨盤開放骨折も死亡率を増加させる。さらに65歳以上はそれ未満に比べて骨盤骨折に限らずどんな外傷でも死亡率は上昇する。
骨盤の固定
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一刻も早く体外的に骨盤を圧迫する。Grade 1+
シートラッピング以外の骨盤連結(pelvic binders、商品名としてはサムスリングなど)を推奨する。骨盤連結はどんな器具でも可であり、大腿骨大転子に位置するように装着する。この項目はGrade 2+
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上記1行目と2行目で何が違うのかよく分からなかった。圧迫方法は骨盤連結以外、例えば器具の用意ができるまで手で骨盤を押さえる方法を取れと言いたいのかも知れない。骨盤骨折に対する体外的固定は多くの外傷勧告で取り上げられてはいるが、前向きな研究が一つもなく全て後ろ向き研究のため根拠が乏しいのだが、その後ろ向き研究の結果からは、骨盤連結は輸血量を減らし集中治療室及び入院の期間を短縮させる。また骨盤連結は死亡率を低下させるが、これは低いエビデンスレベルに留まっている。気をつけるべきは、布で骨盤を包むシートラッピングにはこれらの効果は認めないこと、痩せている男性か高齢者に骨盤連結器具をつけると皮膚損傷をきたす可能性があることである。
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患者の搬送
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外傷センターに運ぶ。Grade 1+
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外傷センターがなければ人員や施設が整っているところに搬送する。外傷センター搬送によって全ての外傷患者の死亡率は20%低下、重症外傷患者の死亡率は30%低下するとされている。もし外傷センターが遠く搬送時間が延長したとしても、近隣の病院に搬送するより死亡率を低下させることが報告されている。重症の骨盤骨折患者についての検討はごく少数であるが、それでも外傷センターへの搬送は死亡率を低下させる。
ちゃんと勉強しないと
救急隊員日誌を書いている「月に行きたい」さん、ありがとう。久しぶりにJPTEC関係の勉強をすることができた。一時期はJPTECを目の敵に原稿を書きまくっていた。これを機にまたJPTECの勉強(というより批判の方が正しいか)をしようかと思っている。
文献
1)Anaesth Crit Care Pain Med 2019;38:199-207
2)Arch Orthop Trauma Surg 2004;124:123-8
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