220529_VOICE#70_習合

 
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主張

 

月刊消防 2021/11/01, p86

月刊消防「VOICE」

プロフィール
名前:川口 了徹
よみがな:かわぐち りょうてつ
所属:愛知県 名古屋市消防局消防部指令課指令第三係
出身地:愛知県名古屋市
消防士拝命日:平成15年4月1日
救命士合格年:平成22年
階級:消防司令
趣味:オートバイ、熱帯魚

 

「習合」

 習合とは「文化接触によって生じる2つ以上の異質な文化的要素の混在、共存のこと」「相異なる諸種の教理や学説が融合すること」などの意味を持つ言葉のようです。身近な例だと、初詣に神社に行く人もいれば、お寺に行く人もいる、といった所でしょうか。最近、この言葉を聞いた時に、とてもしっくり来るものがありました。

消防に拝命した頃は近しい世代で救急業務に熱心な先輩が多かったこと、また初任科の時に母親が難病の脳血管障害を発症し、未知の「何か」に恐怖するのはもう沢山と、救急救命士を志しました。救急係員=専任の救急隊員として、希望叶い養成所を卒業した後も、興味の中心は救急業務に関することばかりでした。しかし、令和元年度から各消防署の消防係・救急係が警防地域係として統合され、現場活動に携わる全ての職員で救急出動に対応する組織体制となりました。全国の消防本部に目を向ければ、約半数の消防本部はそもそも専任の救急隊員を置いておらず、さして珍しくもないというのは後で知った話で、当時、私も含め専任の救急隊員として経歴を積んで来た職員にとっては大きな衝撃でした。



 名古屋市消防局の場合、消防の業務を分業し、救急分野を専門化することが、救急救命士の処置拡大を始めとした高度化の推進に一役買ってきたことは事実であると思います。しかし、救急救命士制度発足から三十年を迎え、高齢の救急救命士がいつまで救急現場の最前線で業務を行うのか、また身体の不調により業務に影響が生じた救急救命士をどうするかなどの問題も顕著になり、消防職員としてのキャリア形成上、一つの業務に偏りすぎる弊害も指摘されるようになりました。そうした中、「団塊の世代」の後期高齢者突入により急速に上昇した救急需要は、今、四十代後半の方々「団塊ジュニア世代」が後期高齢者に突入する二、三十年ぐらい先まで高止まりが続くとも予測されます。

 名古屋市は、間もなく総人口が減少に転じると言われており、それに伴う税収減により職員の増員は一層困難な情勢となります。救急業務を、限られた職員のみが携わる専門領域に留め続けることは、時代の変化に合っていないと感じます。

 こうした状況において心血を注ぐべきは、正しいエビデンスに基づく業務の標準化だと思います。単純な手順の押し付けではなく、知識集のように、これまでの高度化・専門化の流れの中で培われた本質の部分を、あまり救急業務に携わることのなかった消火や救助業務を得意とする職員も含め、現場活動に携わる全ての職員に裾野を広げていくことが重要なのだと、今は考えるようになりました。救急業務の観点から論じていますが、消火、救助業務、予防業務、そして地域防災活動の推進の観点でも同様です。そうしながら、知識と知識が混じり合い、補完し合い、進化して、消防機関として住民の方々にとっても職員にとっても至適なものになっていくと。

 発端が「増え続ける行政課題に対して職員数が増えない」という受動的なものであることは否定しません。しかし、この「『習合』のような発想」には、消防機関の未来・発展性を感じて止まないのです。(1,274字)

主張
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