240430最新救急事情(245)病院外心停止の最近の論文

 
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最新救急事情

月刊消防 2023/09/01号 p74-5

最新事情
病院外心停止の最近の論文
 
今回は、バイスタンダーについての報告を中心に、最近の論文を見てみる。
 

目次

心肺蘇生は質よりいかに早く始めるか

 
救命講習では胸骨圧迫の質について教わる。ちゃんとした胸骨圧迫ができればこれに越したことはないのだが、細かいことより早く始めるのが重要という論文が出ている。バイスタンダーがCPRを開始した場合と、救急隊がCPRを開始した場合の比較で、アメリカはカンサスからの報告である1)。対象は2013年から2021年までの非外傷性病院外心停止患者16万例。バイスタンダー(この論文では最初に通報した人、搬送に携わらない消防職員、警察官をバイスタンダーとしている)が心肺蘇生を始めた割合は43.5%、救急隊員が心配蘇生を始めた割合は56.5%であった。患者の卒倒からCPR開始までの時間はバイスタンダーで中央値が8.0分、救急隊が10.0分であった。生存入院率はバイスタンダー27.1%,救急隊26.8%と有意差は認めなかったが生存退院率はバイスタンダー9.4%、救急隊7.7%と有意差を認めた。卒倒からCPR開始までの時間を調整して生存退院率を比較するとバイスタンダーと救急隊で有意差は見られなかった。
バイスタンダーの中には消防職員や警察官も含まれているので、全くの素人を集めた論文ではない。だがこの論文を見ると、CPRは早く始めることが重要であって、質に関してはそれほど重要でないことがわかる。
シンガポールからの論文2)では、卒倒からCPR開始まで、目撃のある卒倒では7.5分、目撃のない卒倒では12分を超えると蘇生率が著しく低下すると結論している。目撃のない卒倒の方が許容時間が長いのは、おそらく情報が不確かなためバイスタンダーが時間を長く申告したためと思われる。
 

バイスタンダーCPRと年齢・性別

 
アメリカ・シアトルから、患者の年齢と性別による蘇生率の違いが報告されている3)。それによると、心停止後に心室細動が記録されたのは1526例で、平均年齢は62歳、女性は29%であった。55歳で年齢を区切った場合、55歳未満の女性は55歳未満の男性より生存する可能性が高かった。しかし55歳を超えると生存率に有意差は認めなくなった。
熊本大学からは、若い女性はバイスタンダーCPRを受けづらいという報告4)が出ている。2005年1月1日から2020年12月31日までで発生し登録された病院外心停止患者193万人のデータによるとよると、目撃のある心臓由来の心停止患者は35万人余りあり、年齢中央値は78歳、女性は38.5%であった、公衆AEDを受けた割合は男性3,2%に対して女性1.5%と女性は有意に割合が低かった。年齢による比較では、若い女性は若い男性に比べバイスタンダーCPRを受ける割合も公衆AEDを受ける割合も低かったが、神経学的転機は良好であった。
女性の方が蘇生する、というのは現場で働いていれば納得できる結果である。若い女性がCPRを受けられない、というのも心情的には納得できるが、そこは改善すべきだろう。
 

心肺蘇生ボランティアチームの活躍

 
日本でも救命ボランティアチームがあちこちにあって、住民への救命講習の手伝いや、スポーツ大会での救護を引き受けている。このボランティアの人たちを病院前救護の仕組みに取り入れて働いてもらった結果がスウェーデンから報告5)されている。2015年から2019年までの間で病院外心停止症例にボランティアシステムが使われたのは心停止9553例のうち4696例であった。ボランティアは胸骨圧迫と除細動に従事することが多く、その結果として30日生存率が有意に上昇した。
ボランティアチームの活躍を扱った論文は他にもある。カナダからの報告6)は、地域単位でバイスタンダーを増やす論文を集めてメタアナリシスを行なっている。結果として、地域単位で行われるのはCPRトレーンングが最も多く、ついでAEDトレーニング、次にバイスタンダーCPRへの人員の派遣であった。これによりバイスタンダーCPRとバイスタンダーAED使用率が有意に増加した。また生存退院率と30日後の生存率の増加も示された。
 

評価の定まらない自動心マッサージ器

 
最後に、自動心マッサージ器の論文を見つけたので紹介する。自動心マッサージ器は最初に胸にバンドを巻いて胸郭を締め付けるオートパスルが出て、その後ルーカスが出て、現在日本ではルーカスが広く普及している。またスイスからは、ルーカスに似ているがさらにコンパクトなイージーパルスという製品も出ている。これら3つについて手による胸骨圧迫と比較した論文7)が出ている。それによると、機械による胸骨圧迫は全体では手による胸骨圧迫に比べて心拍再開率・30日生存率ともに劣っていた。機器別にみると、オートパスルとルーカスは心拍再開率を有意に向上させた。またオートパルスは30日生存率を有意に増加させた。
自動心マッサージ器については何度かこの連載で取り上げているが、評価は一定していない。もう使われ始めてかなり経つというのに、この機種はよかったとかこっちは悪かったとか、論文によってバラバラである。オートパスルで良い評価の論文は読んだことないし、ルーカスについても良いという論文は記憶にない。大規模研究が必要なのではないだろうか。
 

文献

 
1)El-Zein RS, Resuscitation 2023 Jul 26, Online ahead
2)Goh JL, Resuscitation 2023 Jul 26, Online ahead
3)Yang BY, Resuscitation 2023 Aug; 189:109891, Epub
4)JAMA New Open 2023 Jul 3;6(7): e2321783
5)J Am Coll Cardiol 2023 Jul 18; 82(3):200-10
6)Sci Rep 2023 Jun 23: 13(1):10231
7)J Clin Med 2023 Jun 30; 12(13):4429

 

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